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「ハワイ州政府観光局(DMO)の理事会とCEO」 HTA(Hawaii Tourism Authority)理事会の役割

インタビュー①

「ハワイ州政府観光局(DMO)の理事会とCEO」

HTA(Hawaii Tourism Authority)の理事会の役割

 

― 木村さんがHTAの理事になられたのはいつですか
  また、その経緯を教えてください 

理事に就任したのは2003年です。2012年まで2期・8年間、理事を務めました。当時の理事の数は9名(現11名)で、わたしは下院議長からマウイ島の枠で推薦されて理事になりました。

HTAの役員は、地域バランスをとるためのエリア枠のほか、業界の枠や、特殊な枠としてハワイアンカルチャーのプラクティショナーという枠もあります。これらはハワイ州法201bに記されています。わたしが理事に就任した時は、ホテル関係者、航空会社、ツアーオペレーターの方がいました。またショービジネス業界の人、免税店の人、フラの指導者、そして弁護士さんがいました。

 

― 理事はどのように選ばれるのですか。

ハワイ州知事の推薦を受けて、上下両院で承認を受けて理事になる人がいます。また、下院議長が知事に3名を推薦して知事が選んだ1名を上院が承認する、上院議長が知事に3名を推薦して知事が選んだ1名を下院が承認する、というプロセスで決まります。1業種から3名以上は役員になれないというルールがあります。そのときの州知事によって、ホテル業界からの役員数が多い時も少ない時もあります。ちなみに理事は、無報酬で任期は4年です。

 

― CEOはどのように決まるのでしょう。またCEOはどのような基準で選ばれるのですか 

CEOの選任は役員会で行います。米国全土から公募して決定されるのですが、わたしたちの時は、「観光業界での経験」とともに「政治的な手腕」が求められました。HTAにおいても予算の獲得など州政府との折衝が求められるからです。そして元上院議員だった人がCEOに選ばれました。任期は4年ですが、毎年その業績評価が理事会で行われます。大きな問題がない限り辞めさせることはありません。

 

― 政治折衝といいますと?

1998年にHTAができたときは「TAT(短期宿泊税)総額の32%をHTAの予算とする」となっていましたが、それがどんどん変わっていきました。州法が改正されるわけです。10年程前から82百万ドルという金額でキャップをかけることになったのです。26.5百万ドルはコンベンションセンターの運営に配分され、3百万ドルは自然保護に使わなくてはならないと定められています。


― CEO
の給料は、誰がどう決めるのでしょう

CEOの給料は理事会が決めます。45万ドルほどではないでしょうか。HTAの業務を執行する上で、マーケティングなどに従事する専門家が必要になりますが、そうした人を雇うには年収20~30万ドルほど払わないと良い人が来てくれません。CEOの立場を考えると、それくらいになるのです。

 

― ということは、州知事より給料が高い? 

あきらかに高いです。82百万ドルの予算を自由に使える権限をもち、知事を上回る報酬が得られます。純粋な民間企業のCEOであったら問題ないのですが、公的機関ですので、注目もされ、ときに批判を受けることもあります。HTAでは、海外出張の際、CEOでもエコノミークラスを利用することになっているのですが、「ビジネスクラスに乗っていた」と地元新聞に批判記事が載ったこともありました。航空会社からアップグレードされたんでしょうね。

 

― 理事の仕事は、どのようなことを行うのでしょうか?

82百万ドルをHTAがマーケティングに活用してよいとなっており、この金額は州政府が決めます。この82百万ドルというお金をどう使うか、理事会で戦略と方針を決めて、それに応じてHTA内での予算・計画がつくられ、それを理事会で承認を受けるという仕組みです。理事長は理事の互選で選ばれ、2年ごとに交代します。

理事会は月に1回開催されます。そして理事会のなかには複数の委員会があるのですが、わたしは「戦略策定委員会」の委員長(2007年-2012年)をやっていました。コミュニティや関係機関へのヒアリングを行い、関連情報とともにそれをレビューします。そして戦略計画(Strategic Plan)を立てて理事会に諮ります。通常5年ないし10年の中長期プランがあり、毎年見直しを加えるか否かを決定するのですが、当時はHTAができて間がなかったので、新たな10年プランを策定しました。基本的に、ハワイ州全体の観光戦略はHTAが策定することになっています。

戦略計画が決まれば、それに沿った予算が組まれますが、その予算を検討する「予算委員会」があり、そのほかマーケティングの指針をつくる「マーケティング委員会」や、CEOの評価をして理事会に報告する「エグゼクティブコミッティ」という委員会があります。

 

― 理事は全員、個人の収入を公開する義務があると聞きましたが

そうです。あくまで自己申告ですが。利害関係を明らかにするため、どの組織からどの程度の報酬を得たかを公開することが求められます。200ドル以上の贈り物をもらった場合も申告しなくてはなりません。もし飛行機に乗ってアップグレードしてもらった場合も申告します。これは、配偶者と子供も含まれていて、それぞれの受けた贈り物・収入も公開する必要があります。

ハワイでは「サンシャイン・ロー」という法律があり、州関係の組織はすべて情報公開が義務付けられているのです。3名以上の理事がプライベート空間で観光に関する話をしては駄目なんですが、これも「サンシャイン・ロー」を守るためです。

理事会や委員会は、情報公開が義務付けられているので、1週間前までに議題とともに会議の場所と時間を公示しています。会議は一般に公開されていて、誰が来ても良いし、意見を述べてもよい。テレビカメラが入ることもあります。反対する人が50人くらい出席して大変だったこともありました。感情的になる人がいた場合、警察の介入ということもあり得ます。理事全員に賠責保険がかけられています。無報酬ですが、責任を負いますので、訴訟リスクもあるわけです。

 

― 州政府には観光部局はあるのですか、またHTAと州政府の関係は

州政府の観光に関連する部署は経済開発局内にあります。リサーチの部署がありますが、役所の職員は少ないと思います。州政府のなかには独立した常任の監査スタッフがいてKPIの達成度を評価しています。いわばHTAの業績評価ですね。この監査スタッフは、HTAだけではなく州政府の他の事業の監査も行っています。

 

― 北海道で行われた「DMOフォーラム」にご出席された際、入湯税の超過課税の話が出たとき、
  税額を150円から250円に引き上げるという話に少し唖然とされていましたが

 

「100円のレベルで!」と驚きました。アメリカでは宿泊税が10%を超える州も少なくありません。ハワイはこの4月からホテル税が10.25%になりました。NYやサンフランシスコは10%以上だから問題ないという人がいますが、それら宿泊者の多くはビジネス客です。ところがハワイは観光客がメインですので、宿泊費が高くなると「ハワイでなくてバリ島にしよう」と考えるようになります。

日本では宿泊税の導入に否定的な宿泊事業者が多いと聞きますが、理解できますし、わたしもこれ以上、ハワイの宿泊税を上げるのは反対です。日本の場合、宿泊税の導入に賛成する前に、その使途について「特定財源化」の約束をした方が良いと思います。

 

― HTAは、ハワイにとってどのような点において、もっとも貢献していると思いますか

ハワイではHTAは一定の評価を得ていると思いますが、個々のマーケティグ手法に関する賛否はあります。

統一的なハワイのブランディングを行い、ハワイ全体の価値を維持することは個々の事業者ではできないことですし、ハワインアンカルチャーを守りながら、それらを行うというのも個々の事業者では難しいことです。そうした役割において、HTAの価値があると思います。


― 有難うございました。

 

木村恭子 Kyoko Kimura
【Profile】
神戸女学院大学英文科、コーネル大学ホテル学科。現在、ハワイにてホテル経営。公職としてマウイホテル協会会長、日系人商工会議所会頭、ハワイ州政府中小企業規制調査委員、日本ハワイ観光協議会航空部会座長、2003年より2012年までハワイツーリズムオーソリティ(HTA)理事、戦略的計画委員長としてハワイ州の観光政策策定を指揮。現在HTA戦略的計画アドバイザー。ジョージH.W.ブッシュ前大統領やノーベル平和賞受賞者の元コスタリカ大統領の同時通訳を務めた経験あり。

 

(まとめ)

日本版DMOは、観光地域づくりの「司令塔」などと記されたりしているが、もし仮にDMOが地域の事業者に対して「指令」を出したとしたら、果たして事業者たちはそれに従うだろうか。デスティネーション・マネジメントに際し、地域の人や組織にグリップを利かせるには「制度的手法」と「非制度的手法」があるが、HTAでは、州法201bに理事の選任方法やCEOの権能、KPIまで定められ、その法律は適宜、見直しが行われるようになっている。CEOの権限は極めて大きく、その報酬も日本の観光協会では想像できない額が支払われるが、一方、CEOを選任する理事は無報酬で、別の法律によって家計の情報公開が求められ賠償責任のリスクまで負っている。

わが国の現状では、公的資金を財源とするDMO(観光協会)の場合、その責任者に予算や事業計画の権限を与えることはそう簡単な話ではなく、単純に考えていては「観光協会の看板の掛け替え」との批判を免れず、世界水準のDMOとは程遠いものになりかねない。DMOと行政の関係性を整理し、地域におけるDMOの位置づけを明確することが不可欠であり、そのためには何らかの制度的な裏付けを検討していくことも必要だ。

今後、こうした議論を深めていきたい。 (文責:大社)

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